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節税するために

 
 
 
政府・与党は12月中旬、2020年度の税制改正大綱を公表した。給与所得控除の上限が大きく引き下げられるほか、高額所得者の基礎控除がなくなる。また国外中古不動産を活用した節税対策も封じられるなど富裕層には打撃となる。大綱からわかる個人の税負担のポイントを解説する。

海外不動産の赤字 所得の圧縮に使えず
 

「ついに来るべきものが来たか」。富裕層を相手に節税対策を提案する税理士は一様にため息をつく。オーナー企業の経営者や開業医といった所得の高い富裕層の人気を集めていた節税対策が、2021年から封じられることになったからだ。

その対策とは国外の中古不動産の活用だ。主に米国で高額な中古不動産を購入して、家賃収入を上回る減価償却費を発生させて、不動産所得を赤字にし、給与所得などと損益通算することで所得を圧縮、節税するという手法だ。国外の中古不動産は、価格に占める建物比率が日本よりも高く、しかも短期で償却できるため、減価償却費を多めに計上し、赤字を作りやすい。物件を仲介する不動産会社の売り込みがこのところ過熱化し、節税封じは時間の問題とみられていた。

具体例を見よう(A参照)。米国で築年数35年の土地・建物合計で5000万円の賃貸用木造住宅のケースだ。日本だと土地の資産価値の方が高く、建物と土地の割合が20%対80%になるところだが、土地の資産価値が日本より安い米国では建物と土地の割合が80%対20%と逆転する。建物の価格は4000万円となる。

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節税のキモはこうした中古不動産の減価償却費が多めに計上できること。Aのケースでは築年数22年以上なので簡便法という特例により4年間で償却できる。つまり年間1000万円の減価償却費を計上できる。不動産の年間家賃が200万円としても減価償却費1000万円を差し引けば、不動産所得は年800万円の赤字となる。給与所得が2000万円としても損益通算すれば課税所得は1200万円に圧縮でき、税金は所得税、住民税合計で367万円となる。こうした対策を取らないと税金は所得税、住民税合計で731万円なので年間364万円の節税になる。しかも、この節税効果が4年間続くわけだ。

このやり方だと減価償却費がなくなる5年目以降には不動産所得が黒字になり、給与所得と合わせた税額が増えてしまう。そこで、この節税対策では不動産の売却を勧める。「米国中古不動産は依然先高感が強く、売れば利益が出ることも多い」(ある不動産仲介業者)

売却による譲渡所得は給与所得とは別に課税する分離課税。しかも売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えていれば、税率は所得税(復興特別所得税含む)と住民税の合計でも20.315%で済む。給与所得の最高税率が所得税、住民税の合計で55%になる人が多い富裕層にとっては、不動産売却に伴う税金を多少払ってもあまり負担にはならない。こうした「『出口戦略』があることもこの節税対策の人気の背景」(不動産税務に詳しい鳥山昌則税理士)だった。

今回の税制改正によって、不動産所得の赤字の損益通算は2021年からできなくなる。「今年や2020年については認められる」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)が、国外中古不動産の異常な過熱ぶりは急速に沈静化しそうだ。

給与所得控除の上限額引き下げ 高所得者にダブルパンチ
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2020年1月からは会社員の必要経費にあたる給与所得控除の扱いも変わり、高収入の会社員や公務員は増税となる。

給与所得控除は、一定額を必要経費とみなして給与収入から差し引ける制度だ。かつては年収に応じて増える定率部分があったが、2013年に、控除が頭打ちとなる上限が高収入者を対象に設けられた。当初は上限が245万円、適用対象年収が1500万円超だったが、次第に切り下げられ、2017年分からは220万円、1000万円超となっていた。

2020年1月からは控除額が一律10万円減るうえに、上限、適用対象年収ともに減る(B参照)。例えば今年も来年も年収が1100万円なら、来年の給与所得控除額は25万円減額の195万円。基礎控除は来年から10万円増えるものの、所得税率を23%とすると、今年に比べて3万4500円所得税の負担が重くなる計算だ。

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そもそも富裕層が国外中古不動産を使った節税対策に走る背景には、このところ「高額所得者の税負担増につながる所得税の改正が相次いだ」(浅野恵理税理士)からだ。今回の改正では所得税の負担はさらに重くなる。富裕層にとっては、国外中古不動産の活用封じとあわせて「ダブルパンチ」となる。

給与所得控除だけではない。現在誰にも適用される基礎控除でも富裕層の負担増がみられる。2020年からは課税所得が2500万円超の人は基礎控除が使えなくなる。

また大企業の役員などを務めて退職した人の中には企業年金を含め高収入者もいる。こうした人にも負担増の波が押し寄せる。国から厚生年金や国民年金、以前の勤め先から企業年金を受け取っている人の場合、「公的年金等控除」という仕組みがあり、年金収入から差し引いて所得を圧縮できる。現在、控除額に上限はないが来年から初めて設定される。基準は「年金年収1000万円超は195万5000万円が控除上限」だ。これだけ多額の収入がある人は限られるが、将来「適用年収が引き下げられ増税になる人が増える可能性がある」(藤曲武美税理士)。

「高所得者の税負担は今後も増えそう」(藤曲氏)との見方は多い。高所得者に対する税の逆風は続く。