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ITは斜陽産業化したこれからはエネルギーと医療の時代

「インターネットの外」のレースが始まっている
 では、インターネット産業が成熟してしまった今日において、引き続き世界に星の数ほど生まれているスタートアップはどこに向かっているのだろうか。増え続ける莫大な投資資金はどこに向かっているのか。

 答えは簡単、「インターネットの外」である。
 医療、交通、物流、教育、製造業等々、リアルでフィジカルな世界をテクノロジーによって再定義する競争がすでに始まっている。一般にデジタルトランスフォーメーションと言われるものも、これと同義と考えてほとんど差し支えない。全産業において起きているからこそ、あらゆる産業に従事する人々にとって、テクノロジーへの理解がより決定的に必要となっているのである。

 ところで、インターネットの「中」で最もトランスフォーメーション(革新)された産業は何だったのか。それは広告産業である。加えて広告収入の「撒き餌」であるところのコンテンツ産業だった。

 現代のインターネット産業は7つの企業に寡占されているが、うちグーグルとフェイスブックの収益源は広告である。その広告を閲覧するための道具、スマートフォンを作っているのがアップルであり、それらを表示するためのサーバがアマゾン(AWS)、マイクロソフト(アジュール)である。中国テンセントもその売上構成はコンテンツと広告である。

 なお、アリババとアマゾンのEコマースについては、インターネットの中が半分、外が半分の事業リソースによって構成されるハイブリッド産業である。陳列、集客、注文、決済のプロセスはオンラインだが、在庫・物流に膨大なオフラインリソースへの投資を要する。したがって、アマゾンの収益性はその大半をクラウドサービス依存しているし、アリババの高い収益性の本質は出店者に対する集客マーケティングの代行であって、コマースすなわち販売マージンはその一部である。

 逆に、そうであればこそ、Eコマースを儲かるビジネスとすべくアマゾン、アリババともにオフライン事業リソース部分のデジタルトランスフォーメーションに躍起なのである。アマゾンは2012年にロボットメーカーのKivaを買収し倉庫のロボット化・無人化を推し進め、アリババは物流のアルゴリズム最適化、クラウドソーシング化に1兆円を投じている。

 議論を広告に戻すと、広告とコンテンツの事業構成要素はほぼ100%データである。ゆえにインターネットの登場以来、四半世紀で最もデジタルトランスフォーメーションが進んだ産業となり、他方でディスラプト(破壊)される側の旧来メディアが最も危機に瀕している産業の1つである。

 それらデジタルネイティブな広告・コンテンツ産業のデジタルトランスフォーメーションのレースが第四コーナーに差し掛かるとともに、その他全産業のデジタルトランスフォーメーションのレースが「インターネットの外」において始まった。それが2010年代後半から今後しばらく続く一大産業変革である。

 現在(2019年1月)の米国のスタートアップ時価総額ランキング上位からUber(交通)、WeWork(オフィス)、Airbnb(宿泊)のトップ3すべてが「インターネットの外」が主戦場のビジネスを展開している。

 

 タックルせんとする産業の構造、実情を深く理解していなければならない。そして最終消費者だけと向き合っていればよかったインターネットビジネスと違い、複数のステイクホルダーと真摯に向き合わねばならず、適切なコミュニケーションコントロールを行う必要がある。さらにそのステイクホルダーには少なからず行政や地方自治体の規制当局、業界団体、労働組合、ひいては一般大衆の民意といった、一筋縄ではいかない相手も含まれ、またそれらとの調整能力も必要である。おおよそ二十歳そこそこの未経験の若者にはできない代物である。

 事実、それらステイクホルダーとの利害調整に失敗したUberは危機に瀕し、結局、創業社長トラヴィス・カラニックは会社を追放される結果となった。Airbnbも世界各地で規制に締め出され多数の訴訟を抱えているし、自動運転は事故を起こした瞬間に市民の敵となり締め出される。それがインターネットの外の戦いであり、極めてシリアスでタフである。